Masuk第227話 やっぱり俺のことが好きなんだな
「大丈夫よ」
美月は首を横に振った。
「無事なら、それでいい。あの野郎、いい加減に思い上がるのも大概にしろってんだ。街のど真ん中で、あんな悪辣な真似をするなんてな。自業自得で済んだだけ、せいぜい運が良かったってところだ」
翔太は、義憤に駆られていた。
美月が無事で本当に良かった。
――もし無事でなかったら……蓮がどんなふうに暴れ出すか、想像もつかない!
今の蓮は、以前に比べればずいぶん丸くなったように見える。
だが、あの苛烈な性格は、相変わらずだ。
それにしても、今日の一件には、本当に肝を冷やした。
<第230話 これはどういう意味だ?綾瀬が退室すると、しばらくして、きっちりとスーツを着こなした一ノ瀬輝(いちのせ あきら)が入ってきた。一ノ瀬にとって、美月と顔を合わせるのは初めてだった。その瞬間、思わず目を奪われた。――この橘社長、うちの看板女優よりよっぽど綺麗じゃないか。一ノ瀬は、これまで数々の場数を踏んできた男だった。これしきのことで、いつまでも呆けているような人間ではない。「橘社長、初めまして。栄振エンターテインメントの一ノ瀬輝と申します。突然お邪魔してしまい、申し訳ありません」美月は一ノ瀬をちらりと見た。とはいえ、八つ当たりするつもりはない。そばのソファを指した。「どうぞ、おかけください」一ノ瀬は素直に腰を下ろした。「一ノ瀬社長、何かお飲みになりますか?」「いえ、結構です」今の一ノ瀬には、飲み物を喉に通す余裕などなかった。彼は、目の前の美月をじっと見つめた。――言うまでもない。この美貌なら、女性嫌いと噂される蓮をして、ここまで夢中にさせるのも無理はない。「一ノ瀬社長、わざわざお越しになったのは、私の顔をじっと見るためではないでしょう?」美月の澄んだ冷たい声が響いた。一ノ瀬は、はっと我に返った。「すみま
第229話 これほどの人材が、なぜうちの会社へ?美月が会社に着くと、綾瀬が歩み寄り、心配そうに尋ねた。「社長、昨日は大丈夫でしたか?」美月は、彼女が昨日の一件を知っていることに驚きはしなかった。首を振って言った。「大丈夫よ」綾瀬は、それを聞いてようやくほっとした。実を言えば、彼女も昨日、この件を知ったばかりだった。その後、美月の電話にはなかなか繋がらず、夜になってからでは、さすがに連絡するのも気が引けた。――今日の社長は顔色もよく、いつもと変わらない様子だ。どうやら、昨日の一件は、社長には何の影響もなかったらしい。実は、心配していたのは綾瀬だけではなかった。戸田と杉本も、美月が出社したと聞くと、すぐに駆けつけてきた。「大丈夫よ。あの人を見た時点で何かおかしいと思ったから、すぐに身をかわしたの。一滴も浴びてないわ」「それは何よりだ!」戸田は、ほっと息をつくと同時に、腹立たしげに言った。「あのクソ野郎、一体どんな恨みがあって、こんな悪辣な真似をしやがったんだ!」杉本も義憤に駆られていた。「そうだぜ。あいつ、あんなものをどこで手に入れたんだ? その入手ルートは、警察に徹底的に調べてもらわないとな。あんな物騒なものを売ってる場所がある限り、次の被害者が出てもおかしくないんだから」本来、ああいうものは厳しく規制されていて、特別な場所でしか扱われないは
第228話 その褒め方、ズルい昼間の出来事のせいか、夜になると、蓮は美月にべったりとまとわりついて離れなかった。胸の奥にあったあの恐怖を、美月には一言も告げなかった。彼女が無事に立っている姿を目にした瞬間、蓮はまるで、一度失ったものを取り戻したような気がしたのだ。だから今は、とにかく彼女の存在を、この手で確かめていたかった。――自分の中に彼女がいて、彼女の中に自分がいる……それを確かめて、ようやく胸の奥に巣くっていた恐怖と虚無を、少しずつ鎮めることができるのだ。夜の大半を過ごし、美月に散々抵抗された末、蓮はようやく大人しくなった。二人はシャワーを浴び、再びベッドに横になった。蓮は美月の額にキスを落とした。「おやすみ」そう言って手を伸ばし、寝室の灯りを消した。部屋は、たちまち闇に包まれた……翌朝、美月は目を覚ました。目を開けると、真っ先に飛び込んできたのは、目の前に蓮の顔だった。長い睫毛が、今にも目に刺さりそうなほど近い。美月は慌てて、頭を少し後ろへ引いた。「おはよう」美月は、彼の笑顔を見つめた。――言うまでもないけど、この男は本当に神様に愛されてる。朝っぱらからこんな美貌を目の前に突きつけられれば、さすがの私もつい目を奪われる。
第227話 やっぱり俺のことが好きなんだな「大丈夫よ」美月は首を横に振った。「無事なら、それでいい。あの野郎、いい加減に思い上がるのも大概にしろってんだ。街のど真ん中で、あんな悪辣な真似をするなんてな。自業自得で済んだだけ、せいぜい運が良かったってところだ」翔太は、義憤に駆られていた。美月が無事で本当に良かった。――もし無事でなかったら……蓮がどんなふうに暴れ出すか、想像もつかない!今の蓮は、以前に比べればずいぶん丸くなったように見える。だが、あの苛烈な性格は、相変わらずだ。それにしても、今日の一件には、本当に肝を冷やした。この知らせを聞いた時は、本当にぞっとした。「もういいから、帰れ!」蓮は、翔太が邪魔で仕方なかった。――こいつがいると、美月を慰めることもできない。翔太も、さすがに空気を読んだ。蓮を一瞥すると、手をひらひらさせた。「分かったよ。じゃあ、先に帰るわ。何かあったら電話してくれ。俺にできないこともあるだろうが、使い走りくらいなら俺にもできるからな」そう言って、美月にウインクを送ると、振り返って立ち去っていった。美月は言葉を失った。「……」蓮は、むっとした。――この野郎、目でも悪いんじゃないのか?
第226話 絶対に生かしてはおかないその時、誰かが車の窓を叩いた。蓮は、不機嫌そうに外へ目を向けた。藍原だった。蓮はドアを開けるなり、ぶっきらぼうに言った。「何を急かしてる?」藍原は絶句した。「……」――話があるなら、少しくらい待てないのか?こっちは外で何分も待っていたというのに。「美月は降りてこないのか?」蓮の不満は、隠そうともせず顔に出ていた。「彼女はさっき酷い目に遭って、怖がってるんだ。それなのに、降ろせって? 俺も当事者だぞ。どうだ、俺が一緒にいるだけじゃ足りないのか?」藍原は呆れた。――どうして、そういう言い方になるんだ?あの男が硫酸をかけようとしたのは、美月なんだぞ。幸い、藍原が言い返す必要はなかった。美月が、車から降りてきたのだ。「行きましょう」蓮は藍原を一睨みすると、すぐに美月のそばへ駆け寄った。「さっき怖くて足がすくんだよな? まだ力が入らないだろうから、俺が支えてやる!」美月は言葉を失った。「……」――いつ、私が足をすくませたの?だが、美月は反論することもなく、蓮に支えられるまま署の中へ入っていった。
第225話 あの女が黒幕なら、絶対に許さない十分後、警察がやってきた。「どうした? 誰が通報した?」通行人の一人が、地面で苦しそうに呻いている男を指差した。それから、その隣に立つ、ひときわ整った顔立ちの男にも目を向けた。藍原はその男を見て、一瞬驚いた。――蓮だと?「何があった?」蓮は、無表情のまま答えた。「こいつが、俺たちに硫酸をかけてきた」藍原は、地面で呻いている男を見た。今の状態を見ても、さほど驚きはしなかった。――こいつ、いったい何を考えて、蓮に硫酸をかけようなんてしたんだ?蓮の護衛たちが、一人ひとりどれほど手強いことか。それに、蓮本人にしたって――警察官である自分ですら、正面からやり合えば勝てる気がしない。「じゃあ、後で署まで来て、事情を聞かせてくれ」蓮に異存はなかった。藍原は彼を一瞥すると、同僚たちに指示を出した。「お前たち二人は、救急車が来たら一緒に病院へ行け。ほかは現場検証だ」その一言で、警察官たちはそれぞれ動き始めた。現場には目撃者が大勢いる。証拠を集める必要があった。救急車も、すぐに到着した。救急隊員たちは男を担架に乗せ、警察官二人が同乗した。







